Woodstock
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Isle of Wight Festival
Isle of Wight Festival

Festival Express
Festival Express

 フェスティヴァルのどこに魅力があるんだろう? どこにはまっていくんだろう? そもそもフェスティヴァルってなんなのよ? と、思うことはないですか? そんなところから始まって集め出してしまったのがフェスティヴァルのDVD。それをちらりと紹介しながら、ちょっと考えてみませんか? その第三回目です… 

 といっても、フジロックまであとわずか。こんな時期にこんな原稿をアップして申し訳ないんですが、なんと今年はウッドストックから40周年。オリジナルには収録されていなかった170分にも及ぶライヴ映像に2時間のドキュメンタリーもくっつけたコレクターズ・エディション(国内盤 / US import)が発表されるんだとか… ビックリです。しかも、先日、日高氏と話をしていたら、その一部が今年の「富士映劇」で上映されるなんてことを耳にしています。っても、公式サイトでその情報をチェックしようとしたんだけど、みつからないんですけど… まぁ、ご勘弁を。

 こんな「フェスティヴァル」がなぜ60年代終わりから一気に世界に広まっていたのか? 今から考えると、不思議な感じがします。なにせ、今のように情報が瞬時に伝わった時代ではなかったんですね。前回、紹介した『Complete Monterey Pop Festival(邦題 : モンタレー・ポップ・フェスティバル 1967)[US import / 国内盤]』が1967年で、その翌年には、大西洋を渡ったイギリスのワイト島で「Isle of Wight Festival」(ワイト島ロックフェスティヴァル)が始まっています。それだけではなく、ウッドストックの存在さえ知られていなかった69年に日本の中津川で始まったのが全日本フォークジャンボリー。といっても、その話はかつて私たちがやった遠藤賢司さんとのインタヴューで教えていただんですが、調べてみると、ウッドストックが開催されたのが69年の8月15日からの3日間だったのに対して、全日本フォークジャンボリーの第一回目は同年の8月9日と10日の二日間となっています。一般的には「ウッドストックの影響で日本にもロック・フェスティヴァルが…」と思われがちなんですが、そうではなかったのが実に興味深いと思えるんですが、いかがなものでしょう。

 ちなみに、ご存知の方も多いと思うんですが、今年、その全日本フォークジャンボリーがこの8月1日、フジロックの直後になんと40年ぶりに復活します。っても、名前は「椛の湖 FOLK JAMBOREE」と横文字入りらしいんですが、公式サイトに行くと、その詳細をチェックできますし、当時の写真を見ることができます。さらに、こちらでは映像も見ることができるし、前述の遠藤賢司さんがその2回目で演奏した様子を見ると、今でもゾクゾクしませんか?

Woodstock さて、それはともかく、DVDとしてこういったフェスティヴァルものを語るときに、避けて通れないのはやはり『Woodstock(邦題 : ウッドストック 愛と平和と音楽の3日間)[US import / 国内盤]』ではないかと思います。前述のようにコレクターズ・エディション(国内盤 / US import)も出るんですが、幾度か格安の廉価版が登場しているので、比較的容易にチェックすることができると思います。といっても、それが幾度か繰り返されて、どれがオリジナルか今じゃよくわかりませんが。

 日本にこのオリジナルが映画として上陸したときのインパクトは強力で、この映画が見せてくれたのはそれまでに想像もできなかった自由な世界であったり、新しい音楽であったり、生き方であったり… と、あまりにも多くのものがなだれ込んできたという印象が残っています。もちろん、日本ではほとんど体験することのできなかったミュージシャンたちの全盛期の演奏なんぞワクワクドキドキの連続。斬新な映像の編集に演出されて、ザ・フーからジョー・コッカー、サンタナからジミ・ヘンドリックスにスライ・アンド・ザ・ファミリーストーンといったバンドやアーティストの演奏が当時の若い世代に大きな衝撃を与えています。同時に、日本ではほとんど無名のアーティストでも大きな印象を残すことになります。そのひとりがギター一本でとんでもないエネルギーを感じさせたリッチー・ヘヴンス。単純に「フリーダム」と連呼するだけで、ほとんどがカメラ1台だけの撮影なのに、これで彼がスターになったと言ってもいいほどのオーラを放っています。昔からフェスティヴァルは比較的無名なアーティストが大きく知れ渡るきっかけになったというのがこんなところからもわかります。

Easy Rider おそらく、当時、日本に怒濤のような勢いで流れ込んできたアメリカン・ニュー・シネマ(代表的な作品が『イージーライダー』や『俺たちに明日はない』に『真夜中のカーボーイ』あたりが有名)の影響もあるんでしょう。旧来の価値観を否定して生まれた、なにか、「全く新しい世界」がそこにあったのではないかと思います。映像に封印された演奏だけではなく、ヘリコプターからの映像で、噂では40万人集まったというオーディエンスを見たときにも、なにやら感動したものです。なにせステージはひとつ。当然、今のように巨大なモニターなんぞ、SF映画でしか不可能だった時代のこと。後ろの方なんてなにも見えないどころか、聞こえなかったかもしれませんから。それなのに、当初、20万枚近くのチケットが売れて… チケットも持っていないで来た無数の人たちがフェンスを壊してなだれ込み、最終的にはフリー・コンサートとなったことなど、真偽のほどは定かではないにしろ、いろんな情報が伝わっています。いずれにせよ、「たかだか音楽」がこれほどの人間を動かしたことに多いに驚かされたものです。といっても、後にわかるんですが、トレイもなければ、充分な食料も準備されていなくて、本当はかなりつらいものだったとか。結局、このフェスティヴァル(といっても、主催者はインタヴューで「コンサート」といっていて、フェスティヴァルとは呼んでいないんですけど)は大赤字を記録して、この映画の収入などで、ずっと後になって収益を上げ始めたらしいということで、続けられることはなかったといいます。

Message to Love: Isle of Wight さて、その時点でもすでに浮き上がってくるんですが、音楽が巨大なビジネスとなっていく行程でいろいろな矛盾が吹き出してきます。といっても、当然のことなんですけどね。大きなフェスティヴァルを開催するには莫大な経費がかかる。誰もただで働くことはできないし、ミュージシャンは演奏をしてお金を受け取るのが当然。っても、莫大なギャラを要求してくるマネージャーやエージェントもいるわけです。一方で、「愛と平和を歌っているくせに、金の亡者かぁ」といった批判が出てくる…. といった、そんな状況をかなり生々しく描いているのがいイギリス南部、英仏海峡に浮かぶ島で開かれた『Message to Love: Isle of Wight Festival(邦題 : ワイト島1970~輝かしきロックの残像)[US import / 国内盤]』。ステージ裏で札束を数える生々しい映像が出てきたり、ステージにオーディエンスが乗り込んできて、主催者を批判したり… といっても、その隣で主催者が発言を許すなんて光景がほほえましくもあるんですが。おそらく、これなんぞ、主催者だけではなく、ミュージシャンや若い世代が時代や文化の変化に真剣に向き合っていた証明なのかもしれませんけど。今じゃ、ハリウッド・スターになってしまったクリス・クリストファーソンやまだまだうら若きジョニ・ミッチェルが歌っているときには演奏の邪魔をするような光景があったり… 実際、クリス・クリストファーソンは演奏の途中で、ステージを降りて、主催者がオーディエンスに「金が払えなかったら、来るんじゃねぇよ!」なんてかみついている光景も記録されていて、実に生々しいのです。それに、おそらく、最後に行われただろうあるシーン、(詳しい説明は、あえてしまえん)ラヴ&ピースを象徴する部分に感じるのは当時の人々のエネルギー。それに感動せざるを得ないんですが、それは、あの時代の端っこを知っているからですかなぁ。

The Who なお、ここに収められている演奏ですが、強力に面白いと思いますよ。ドキュメンタリーなので、演奏を楽しむためのものではないことを断っておきますけど、有名なジミ・ヘンドリックスからザ・フーのみならず、フリーやザ・ドアーズにテン・イヤーズ・アフターやエマーソン・レイク・アンド・パーマーとか… やっぱすごい迫力を感じるのですよ。それに前述のジョニ・ミッチェルあたりの映像にマイルス・デイヴィスのバックでキース・ジャレットとチック・コリアが顔を出している映像に驚かされ、レナード・コーエンやジェスロ・タルあたりにも「時代の熱」を感じるのです。

 ちなみに、この時の映像がいろいろな形で発表されていて、最も有名なのは、いうまでもなく『ブルー・ワイルド・エンジェル~ワイト島のジミ・ヘンドリックス』だと思いますね。それに、内容の是非はともかく、『ワイト島のザ・フー1970 -究極エディション-』や『ワイト島のムーディ・ブルース』があるし、前述のマイルスについても、『マイルス・エレクトリック 〜 パフォーマンス・アット・ザ・アイル・オブ・ワイト』というのがみつかります。他の、渋いところも出てこないですかなぁ。ひょっとして出ているのかもしれませんけど。

Festival Express さて、最後に取り上げる、この時期、70年前後の作品が、数年前に映画公開され、富士映劇でも上映が予定されていた『Festival Express(邦題 : フェスティバル・エクスプレス)[US import / 国内盤]』。残念ながら、あの時は大雨になって、結局は上映されなかったように記憶しているんですが、ひょっとしてまたやったのかなぁ… なんでもこの映画のフィルムがずっと倉庫に眠っていて、それが「たまたま発見」されて、その結果上映もされ、DVDにもなったという、かなり信じがたい物語があるんですけど、オリジナルができたときには上映されなくて「オクラ」になったというから信じられません。ずっと後に自ら命を絶ったリチャード・マニュエルが歌うザ・バンドのライヴ映像、「アイ・シャル・ビー・リリースト」には涙が出るし、グレイトフル・デッドにジャニス・ジョプリン、グラム・パーソンズはいなかったけど、フライング・ブリトゥ・ブラザーズに、懐かしのマッシュマッカーンの演奏も強力です。今も健在なバディ・ガイはずいぶんと痩せていて、パワー全開です。しかも、ジャニスなんて天国に行く少し前のライヴ映像だというので、めちゃくちゃ嬉しいのです。でも、信じられない映像はこれでしょうなぁ。すでにこの世にはいないジャニス・ジョプリンとザ・バンドのリック・ダンコ、それに、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアがかなりらりった感じでセッションをやっているショット。「ぎょぇ〜」と絶叫したくなるほどにオールド・スクール人間には驚異なのです。カナダ各地でフェスティヴァルをやるのに、列車を借り切ってみんなが移動したらしく、その時の列車内セッションの様子なんですが、どうしようもなく引き込まれてしまうのです。

 これが開かれたカナダでも、アメリカのウッドストックやイギリスのワイト島と同じく、ロック、ビジネス、ラヴ&ピースがぶつかりながら、うごめいている表情が記録されているんですね。どこの町だったか、今は覚えてはいないんですが、やはり「チケットの値段が高すぎる。金儲けはするな!」「ただで見せろ!」といったオーディエンスが登場。当時の物価がどんなものだったか、普通のコンサートと比べてフェスティヴァルのチケットがどれほどの値段だったか、全く想像できないんですが、「フリー・コンサートにしろ」という発想は、「そりゃぁ、無理がある」としか言えませんけど。それでも、グレイフル・デッドのガルシアが、お金のない人たちのために会場外かどこかでただで演奏してあげたりしている光景も記録されています。

71全日本フォークジャンボリー それと似たり寄ったりの状況があったのか、あるいは、全く見当違いなのか、諸説があるんですが、全日本フォークジャンボリーでも同じような光景が見られたとか。売れているアーティストが中心のステージと、売れていないマイナー系の人たちのステージがあったらしく、ちょうどそんな騒ぎの頃に録音されたらしいのがこのアルバム、『71全日本フォークジャンボリー』に収録されている吉田拓郎の「人間なんて」。本人がそういったステージのことを口にしているのがこのライヴ。強力に商業主義批判を繰り返していたということですが、さてさて、このあたりをきっかけに吉田拓郎が大ヒットしていったのは、みなさんご存知の通りですね。面白いのは、高田渡が「うるせぇぞ、吉田拓郎! 殺してやろうか、この野郎」って、笑いながら話している声もこのアルバムには記録されているんですが、それを面白いと言えるのは、そんな時代を知っている人だけかしらねぇ。そんな世代の人がこのサイトを訪ねているのかどうか全然わかりませんが。

 ということで、このシリーズどこまで続けるんでしょう? それは、また考えましょう。