Ben Harper
photo by Koichi “hanasan” Hanafusa

 今年も街中が揺れ動き、街中で音楽が鳴り響いたサウス・バイ・サウスウェストが無事終了しました。fujirockers.orgの姉妹サイト、スマッシング・マグのスタッフも取材活動を終えて帰国。特集のアップに向けて動き出しています。といっても、「予定外」というか、全くメディアには告知されていなかったアーティストが登場したりと、「美味しい話し」を全てをお伝えするのは不可能なんですが、まずは、速報ということで、ちょっとしたニュースなどのお知らせです。

Ben Harper - White Lies for Dark Times トップの写真はテレビ公開されるスタジオ・ライヴに、新しいバンド、Relentless7(レレントレス・セヴン)を率いて登場したベン・ハーパー。(最新作、『White Lies for Dark Times(ホワイト・ライズ・フォー・ダーク・タイムス)』が5月上旬に発売予定)今回はこのほかにもスタッブスという会場でも演奏していたんですが、このライヴを見る限り、ほぼ新しい曲ばかりで勝負。当然のように、ベン・ハーパーは、どう転んでもベン・ハーパーで、その存在感は強力です。一度しか体験していないのに、「ザ・ワールド・スイサイド(世界の自殺)」という曲なんぞがすっかりと記憶に残ったほどで、そのあたり、なにも変わってはいないようにも思えるます。ただ、ドラムス、ベース、ギターというトリオで構成されるバックのバンドが叩き出すのはロック色の強いサウンド。以前のバンド、ジ・イノセント・クリミナルズのベース、フアン・ネルソンが強力なファンキー&ソウル色を打ち出していたのに比較すると、そんな要素が薄れた気がしないでもありません。そのあたりをどうみなさんが感じるのか、今年のフジロックで彼の新しいアプローチを体験していただいていただければと思います。

Flower Travellin' Band さて、今年もやってくれたなぁと思うのは、いきなりのメタリカ出演。どうやら、いつものようにどこかからともなく情報が漏れだしていたらしいんですが、会場が異様な盛り上がりになったとか。といっても、これは事後に伝え知ったことで取材はできてはいません。なんでも、シークレット・ゲストとして登場した彼らのライヴを見ることができたのは2100人で、5000人を越える人たちが会場周辺でたむろしていたとか。さすがにメタリカ。とんでもない人気です。その翌日、メタリカが表紙を飾った地元の新聞、ザ・オースティン・クロニクルで、前日の一面に登場したのが再結成して、初めてのアメリカ・ツアーに乗り出していた日本のバンド、フラワー・トラヴェリン・バンド。しかも、かなり好意的なレヴューが書かれていて、日本人には嬉しかったですね。

 このSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)ですが、なによりも大きな特徴は街中が音楽で揺れ動いているということ。大きな野外ステージも用意はされているんですが、いわゆるライブハウス的な場所からバー、レストラン、カフェにパブの中から、その裏庭、はたまた公園に幕張メッセをちょっとこぢんまりとしたコンヴェンション・センターなど、少なくとも「公式には」73箇所でライヴが同時進行しているというのが特徴です。といっても、その数は公式にパンフレットやインターネットで紹介されているもののみ。こういったショーケースの会場として記されているのがそれぐらいの数で、プロモーション的なものから非公式に繰り広げられているライヴも含めると、下手をすると星の数ほどもあるといってもいいかもしれません。正直、全ての情報を得るのは不可能だと思います。

Metallica しかも、日頃から生演奏を提供している場所でさえ、防音壁なんぞどこ吹く風といったところが多く、会場の中心となるストリート、6番街を歩いていると、ありとあらゆるところから音楽が鳴り響いてくるのです。音楽好きには天国、嫌いだったら地獄なんだろうと思いますが、なによりも音楽をこよなく愛しているのがオースティン。日本じゃ、こんなこと不可能のように思えます。例えば、下北沢が100個ぐらい集まって、日頃は洋服や雑貨を売っている店からストリートまでが音楽で溢れているところを想像してくださいませ。これはすごい光景なんですが、やはりあり得ないでしょ? なんでもオースティンは、アメリカでも「ユニークな町」といった評判がまかり通っているらしく、今年、目についたのが胸のあたりに「Keep Austin Weird」と大きく書かれたTシャツでした。Weirdというのは、「風変わりな」とか「変わり者」とか「異様な」といった意味なんですが、それにプライドを感じている彼らが素晴らしいじゃないですか。

 ちなみに、公式のライヴに関してはチケットが必要で、このフェスティヴァルを通して、全てのライヴを見る権利を持つことができる通し券はなんと600ドルとかなり高いというのが正直なところ。といっても1日換算で1.5万円ぐらいなんですが、会場のキャパシティを越えていたら入れないというのがきついですね。それでも、深夜0時ぐらいにそれぞれの会場でヘッドライナーが登場し、そのそれぞれが有名どころというので、どこの小屋でもほとんど入れるというのが実情のようです。さらに加えて、「ん、あの人がこんな小さな会場でライヴするの?」という楽しみもあります。キャパ2000ちょいの会場でのメタリカは、さすがに度肝を抜かれますが、去年のREMも同じ会場だったし… 熱狂的なファンにとって、すぐ目と鼻の先でアーティストの演奏を体験できるという、これは嬉しいと思いますよ。

Eli "Paperboy" Reed & The True Loves さらに、公式には一カ所でしかライヴの予定が記されていなくても、フェスティヴァルの期間中、さまざまな場所で繰り返してライヴをするバンドもいっぱいいます。実際、噂のソウル・ボーイ、イーライ・ペイパーボーイ・リード&ザ・トゥルー・ラヴが、彼らのMy Spaceで発表していたのは10箇所でのライヴ。今回は、その一番最初となるヴィンテージ・ショップでの模様を取材しているんですが、彼らの場合、1日に2〜3本のライヴを消化していたというのが信じられません。なにせ、ひとつ終わったら、そそくさと帰り支度をして次の会場に飛んでいくのです。彼らの他にも、フジロックではお馴染みのクンビア、ヴェリー・ビー・ケアフルのメンバーに偶然出くわしたときにも、「今回は、4本だな。一本はちょっと離れたサン・アントニオまで出かけだけど」と話していました。それに、アメリカで活動する日本人バンド、ピーランダーZは8本のライヴをやったといいます。しかも、そのほとんどが無料で一般に公開されているというので、そんな無料ライヴを楽しみに全米から人が集まってくるという話しも耳にしています。要するに、ただでフェスティヴァルを楽しめるのですよ。

Ruthie Foster
photo by Koichi “hanasan” Hanafusa

Ruthie Foster それにしても、こういったフェスティヴァルにやってきて驚かされるのは、世界には素晴らしい音楽が無限にあるということ。どれほどアルバムを持っていても、これまで何本のライヴを見てきたとしても、自分たちが知っている音楽なんぞ耳クソ程度だということを思い知らされるのです。今回もそんな新しい発見をしまくってきたという感じですね。例えば、今日、3月26日から日本ツアーの始まるルーシー・フォスター。現地に向かう前から最新作、『ザ・トゥルース』は聞いていたんですが、ライヴはアルバムを遙かに超えてソウルフル。前述のベン・ハーパーあたりが好きだったら、完全にKO を喰らってしまうほどに強力なのです。興味があったらこちらで情報をチェックしてくださいませ。すでに数枚のアルバムを発表していても、大きなメディアに登場することもなく、遙か離れた日本にはなにも伝えられることのないこういったアーティストをいっぱい体験できるのも、こんなフェスティヴァルだからこそなんでしょうね。

Black Joe Lewis それに、あまりの行列でなかなか会場には入れなかったほどの人気を見せる地元のアーティスト、ブラック・ジョー・ルイスも強力でした。なんでもガレージ・ソウルなんて呼ばれているようなんですが、あまりに素晴らしくてアルバムを全部買ってしまったほど。最新作は『Tell ‘Em What Your Name Is!』で、今もアナログ好きが多い音楽ファンに向けて、『Black Joe Lewis & the Honeybears』と、シンプルにバンド名を付けた10インチも売っています。ちなみに、これ、MP3がただでダウンロードできるとジャケットに書いてあったから買ったのに… 日本からじゃダウンロードできないというので、けっこうへこみましたけど。興味のある方はぜひ聞いて欲しいと思っています。その他にも、日本ではまだ全然知られていないどころか、アルバムの入手も難しいようなギャリー・クラーク・ジュニアというブルース・ロック系のアーティストも最高。このあたり、fujirockers.orgの姉妹サイト、スマッシング・マグで徐々にレポートを発表していくのでお楽しみにしていてください。

 ということで、速報的にお伝えしたSXSW関連のニュースですが、詳しくは、fujirockers.orgのスタッフがまたここで発表してくれるのではないかと期待しています。なにせ、それぞれが全く違った体験をしているはずです。見た光景もアーティストも千差万別。それが祭りの楽しさなのかもしれません。

report and photo by Koichi “hanasan” Hanafusa