photo by Koichi “hanasan” Hanafusa
フジロッカーズには大人気のパレス・オヴ・ワンダー。なにやらゲートの外で、もうひとつの、オルタナティヴなフェスティヴァルが進行しているかのような趣さえ感じさせるんだが、その中心にあるステージ、クリスタル・パレスの箱バン的な存在になりつつあるのがビッグ・ウイリー、こと、ウイリー・マクニール率いるバーレスク。実は、LAインディ・シーンで名うてのドラマーと知られるのがこの人物だ。その彼の自宅がハリウッドにあるんだが、そこでちょっとインタヴューを試みた。
「初めてフジロックに行ったのは2001年。新婚旅行でね。あれはMasa(日高氏)からのプレゼントだったんだよ」
と、それからもわかるだろう。実は、ウイリーと日高氏とのつきあいは長い。その始まりは80年代終わりではないかと思うんだが、きっかけはウイリーがジョーイ・アルトゥルーダと共に核となっていたロスのスカ・バンド、Jump With Joey (ジャンプ・ウィズ・ジョーイ)にさかのぼる。おそらく、今では入手不可能だと思うのだが、彼らのデビュー・アルバム、『Ska-Ba』の国内盤が発表されたとき、そのライナーを書いていたのが日高氏。フィッシュボーンとのジョイント・ライヴという形で初来日して以来、スカ・エキスプロージョンへの出演などを含めて、幾度か来日公演をしているんだが、スカ・ファンだったら、そのあたりのことを覚えている人も少なくはないだろう。最近、当時の映像をウイリー本人がYou Tubeにアップしているようで、日本人になじみのある映像としてはテレビ神奈川で放送されていた音楽番組、ファンキー・トマトでのスタジオ・ライヴがみつかる。加えて、彼らがレギュラーで演奏していたロスのクラブ、キング・キングで伝説のサックス、故ローランド・アルフォンソをゲストに迎えたときの映像など、探してみるとまだまだ興味深いものがあるかもしれない。そのウイリーが初体験した時のフジロックについて尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「素晴らしかったよね。世界中からヴァラエティに富んだ音楽が集まってきて、ユニークなステージの数々もあって… しかも、全てがスムーズに運営されている。それに、キャンプしなきゃいけないって状況なのにお客さんもすごくハッピーでね。特に日曜日に見た光景は忘れられないなぁ。『靴を忘れてませんか』って、万単位の人たちが家路につくそばにその靴がぶら下げられているんだけど、夜になってもその靴があるんだよね。アメリカじゃ考えられないもん。(笑)それに、みんな、携帯灰皿を持っていて、ゴミは少ないし、100%リサイクルも考えていて、他の国とは大違いで、素晴らしいと思ったなぁ。個人的にはあまりフェスティヴァルには行ったことがなかったから、ニール・ヤングやパティ・スミスなんて本物のクラシックを見ることもできたし.. これを形にするために多くの人たちが丸1年をかけて仕事をしている理由がよくわかったよ。完璧だよ、あれは」
ウイリーがバーレスクを伴って、初めてフジロックで演奏したのは2004年。パレス・オヴ・ワンダーで2回、アヴァロンで1度に、苗場食堂で演奏しているとのこと。
「ずっと雨でねぇ、特に苗場食堂で演奏したときには、お客さんもどろどろで、滑って転んでいる人もいるし、演奏している途中に上の方から蜘蛛が落ちてきたり… おそらく、ドラムなんかの振動でそうなるんだろうなぁ。こっちはこっちで汗まみれ。身体中から蒸気がでてて、その後ろで笑いながら見ていたのがMasa(日高氏)とジェイソン(お馴染み、ギャズ・メイオールの弟でスカ仲間でもある)。おそらく、泥と蜘蛛と蒸気のコンビネーションが気に入ったのかなぁ(笑)、また呼んでくれるようになったのは。それに、お客さんがとっても喜んでくれるんだよね。ニューヨークとかロスとか、斜に構えた人が多いんだけど、フジのお客さんは最高だよ」
2006年、そして、2008年と続いて、今年もやってくるビッグ・ウイリーのバーレスクが、すでにパレス・オヴ・ワンダーのハウス・バンドのようになっているのはご存知の通り。というので、語ってもらったのがそのエリアの魅力だ。
「ホントのオルタナティヴだよね。文字通り、オフサイト… ってぇか、違った世界がここにあるような感じ? しかも、毎年とんでもないエンタテインメントが繰り広げられているのがすごいよね。綱渡りにはびっくりしたし、背中にピアスを付けた女性が宙づりになって歌ったり… 紫ベビードールも、正直、素晴らしいと思った。名前を覚えてないけど、キューバ系の音楽をやっていた日本のバンドとか。(東京パノラママンボ・ボーイズのこと)本当にお客さんを楽しませてくれる、エンタテインメントがすごくクールに思えるね。それだけじゃなくて、ルーキー・ア・ゴー・ゴーではこれからの才能のために場が作られている。これもいいことだと思うよ」
とはいいながら、なかなか会場のなかは回れないようで、演奏のために来るとほとんど他のバンドの演奏を見られないつらさもあるんだとか。
「演奏することは楽しいし、お客さんからの反応も嬉しいけど、実際のところ、僕らのスケジュールと行ったら超ハードでね。ロスを木曜日の昼にでて、金曜日の夕方に成田到着で、それから5時間バスにゆられて、ラッシュアワーの東京をくぐり抜け、高速から曲がりくねった山道を経由して会場入りするわけさ。確かにフェスティヴァルは楽しいし、とんでもないことが起きているんだろうけど、翌日に2回公演して、その次も2回ライヴ。それが終わったと思ったら、翌日の朝6時にはバスに放り込まれて、また、5時間かけて成田に向かうんだよ。だから、ばりばりの時差ボケのなかで見た日本といえば、フジロックと高速道路のサービス・エリアにラーメンと空港ぐらいでね。メンバーが東京を見たいというので、唯一のチャンスがバスのなかから空港へ向かう途中に見ることだったり..(笑)」
どうやら昨年も、他のメンバーはそのスケジュールで帰国したらしいんだが、彼と一緒にアメリカから来ていた友人の映画監督、(日本では未公開だが、Valiantというアニメーション映画が最近の作品)ギャリー・チャップマンがおやすみを取れたようで、その結果、たまたま訪ねることができたのが苗場近くの法師温泉。そのときの様子は、昨年のエキスプレスでちらりとレポートしているんだが、このことがよほど嬉しかったんだろう、このときもそんな話が出ていたものだ。
「静かなホントの日本を体験できたというか…. 19世紀の伝統的な建物も目を見張るほどだったし… おそらく、ほとんど日本人しか行かないような場所だと思うんだよね。たまたまそんなチャンスがあったんだったけど、あれは嬉しかったね。昔の日本とか、ずっと好きだったから。障子や襖とかのことも知っているし… 嫁さんを連れて行ければ、どれほど幸せか… って、そんなことを思ったぐらいでね」
ちなみに、彼の音楽史だが、最初に脚光を浴びたのはジャンプ・ウィズ・ジョーイの母体となるパンク系のバンド、チュペーロ・チェイン・セックス。当時、LAアンダーグランド・シーンでレッド・ホット・チリペパーズやフィッシュボーンと並んで人気だったのが、そのバンドなんだが、そのときの映像がここでチェックできる。なんとカバーしているのは、元祖、ラッパーであり、ラディカルな詩人のギル・スコット・ヘロンの名曲、The Revolution Will Not Be Televised(レヴォリューション・ウイル・ノット・ビー・テレヴァイズド)。その核となっていたジョーイと、89年からジャンプ・ウイズ・ジョーイが始動し始めて、95年ぐらいからは平行してアシッド・ジャズ系のバンド、The Sol Sonics(ザ・ソル・ソニックス)でも活動。ジョーイのプロジェクト、Cocktails with Joey(カクテルズ・ウイズ・ジョーイ)でKingston Cocktail(キングストン・カクテル)やマーティン・デニーを彷彿させるCocktails with Joey(カクテルズ・ウイズ・ジョーイ)などを発表している。その他、さまざまなセッション・ワークも繰り返していて、グールーによるジャズ・ラップの名作、Jazzmatazz, Vol. 1(ジャズ・マターズ)に伴うツアーなどもにも参加。フジロック・ファンの間では知らない人はいないだろう、デビュー前のオゾマトリにプロデュースの依頼も受けていたというほどにロスでは知られた存在なのだ。
「まぁ、いい時もあったし、悪いときもあった… ミュージシャンなんてそんなものさ。音楽を止めようかと思ったときもあった、正直言えばね。音楽なんか聴いていない客ばかりのバーやレストランでの演奏もやったし… そんなプロセスであるクラブの箱バンとしてバーレスク系の演奏を始めて、その音楽監督として仕事をしながら、テレビ番組での演奏とかに活動を広げていったんだ。そうやってハリウッド・スターのパーティなんかもやったね。ブラッド・ピットやアンジェリーナ・ジョリーにも演奏したし、そのレギュラーのクラブにはミック・ジャガーが遊びに来たり… その翌日にはチャーリー・ワッツが来て、『俺のショーを盗むんじゃねぇよ』って思ったりね。(笑)キャメロン・デアスに『アンタ、最高!』なんていわれたこともあるな」
そのクラブが店を閉じて始めることになったのが、現在のプロジェクト、ビッグ・ウイリーのバーレスクとなる。それ以前は数々のセッション・ワークをこなしていたし、キューバン・ジャズ系のバンドもやっていたんだが、ここ数年はこのプロジェクトを核として、活動しているということだ。
「今年もいつも通り、木曜日にロスを離れて、金曜日には苗場に入って… 月曜日の朝には帰国ってスケジュールだけど、ロスのローカル・バンドで有名でもないから、それは仕方がないさ。もちろん、めちゃくちゃ楽しみにしているけど。それに、今回は、またちょっと違ったこともしようと思っているし。ネタはいっぱいあるからね」
インタヴューが終わっても、当然のように音楽の話は尽きない。ジョー・ストラマーから、ジョン・メイオールにトム・ウェイツまで含めて数々のセッションを積み重ねてきた本物のミュージシャンがウイリーだ。だからこそ、ミュージシャンシップについては、大きなこだわりを持っている。音楽的な素養がなくても「音楽」を作ることができる時代に、あくまでミュージシャンとして積み重ねてきたものを文字通り、生で届けようとしているのだ。
「何年も実際に演奏を積み重ねることでしか得られない、生の音楽の魅力ってのがあると思うんだ。それができることこそがミュージシャンのミュージシャンたるゆえんじゃないのかな。ポップになることは必要なんだろうけど、それでもホントに素晴らしいメロデイや歌を書いてきた人たちがいっぱいいると思うんだ。スティーヴィ・ワンダーとかアース・ウインド&ファイアーとかね。全てを否定するつもりはないけど、コンピュータ時代になって、経験を積まなくても『音楽らしきもの』をいとも簡単に作ることができる。でも、それだけじゃ、音楽が死に絶えるかもしれないとも思うんだ。フジロックの素晴らしさのひとつは、本当に生で演奏するバンドがいっぱいいること。これはとっても嬉しいことなんだよ」
ということで、彼のビッグ・ウイリー&バーレスクもまもなく苗場に到着。また、『生でしか体験できない』音楽の素晴らしさを僕らに伝えてくれると思うのです。
text by org_hanasan, photo by org_q-ta
The official site The latest album "Mulata Loca" previous works The Sosonics |
previous works Jump With Joey previous works Joey Altruda check the albums? |