【ロック・ラティーノ】「誰これ? ヤバい!」の仕掛人、小宮山ショーゴ氏インタビュー
Posted on June 20, 2008
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まったくもって、何をしているかわからない人だ。そのくせ、ヨーロッパを旅すれば、行く先々で友達と出会って昔話に花が咲く。南米から飛び出し、言葉で繋がるスペインを経由して、世田谷の閑静な住宅街に落ちついた。そこは、ラディカル・ミュージック・ネットワークの面々をもてなす宿でもある。フジに関していえば、バンダ・バソッティ(Banda Bassotti)、フェルミン・ムグルザ(Fermin Muguruza)、トドス・トゥス・ムエルトス(Todos Tus Muertos)といった、日本ではまだまだ無名な連中が前夜祭/クロージングという重要な時間帯に登場した。その場にいるほとんどが彼らのことを知らないはずなのに、ありえない盛り上がりが起きたことは事実だ。彼らとの関係は、あくまで「トモダチ」の延長だから、呼び屋なんて言えない。全ては横の繋がり__。
「またバスクにバンド連れて行くんだよ。10月はテックス&サン・フラワー・シード(TEX & the Sun Flower Seed)、1月にタートル・アイランド(Turtle Island)が決定してる。テックスは今度アルバムを発表してリコ(・ロドリゲス、Rico Rodriguez)とも録音してるんだよ」
2006年のルーキーに出演を果たしたのがテックス。そのヴォーカルである「てつ」は、ダライ・ラマと繋がりがある。もっとも、親父さんがネパールへ寄付をして、学校を作ったことに端を発している。そんな話を聞いて、あのリコが感銘を受けてしまったそうだ。
「言ってたことを疑ってたわけじゃないけど、簡単に会えるなんて思わないじゃない? 写真をいっぱい見せられて『ウッソだろ!?』って」
なにも最近話題になっていたからと、ダライ・ラマの話が出たわけではない。去年あたりからショーゴ氏の主催するイベントなどで、そのような話を何度も聞いていた。テックスが出演するのは「いいよ、俺がおごってやるよ」なんて言葉がギャラ代わりとなるような、チャージなしのパーティが多い。
「彼はギター1本で、島とかインドに行ったりしてね。あいつは歌詞が凄いんだよ、いいこと言うのは簡単だけど、レベル(反抗)なことをかわいく言える人は少ないと思う。だから今度、秋にバスクへ連れて行くのはあいつらって決めた」
ショーゴ氏がバスクで回るところといえば、ガステッツァ(gaztetxea)と呼ばれるコミュニティ・センター(集会所のようなもの)だ。廃墟をまるごとDIY精神で包み込み、落書きとオブジェを盛って再生させてある。そこにあるメッセージといったら、アイデンティティの確立に、文化の保存、独立運動に反ファシズムなど、政治的なものが多い。ライヴスペースをはじめ、食堂、図書館、宿泊施設にインターネット・ルーム、果ては海賊ラジオ局にスタジオにプール……となんでもござれだ。
バスク行きの予定をオフィシャルに先立って言っちゃっていいんですか、と聞けば、次のように返してくる。
「問題ない。ウチは発表したらいけない世界じゃないから。もしかしたら何かがあって、行けない可能性が出てくるかもしれないけど、それは関係ない。日本はどーのこーのとうるさいじゃん、バカみたい(笑)」
何かしらの縛りの中でしか自由を見つけられない日本を、きっぱりバカだと言い放つ。「校則は破るためにある」なんて言葉も、彼の前では通用しない。南米から世界へと飛び出して、ありとあらゆる文化を見てきた男に言わせれば、ルールと住処(すみか)は自分で作るもの、ということなのだろう。どんなに大きいことをやっても、ストリートの感覚は忘れない。
「某アーティスト(※名前は伏せます)を連れて行った時、PAのヤツが機材を見て『ウッソ、まだこんなの使ってんだ、懐かし〜』なんて言ったんだ。もちろん日本語なんだけれど、何言ってるか顔見りゃわかるじゃん。『ショーゴ、うちの(機材)はダメなのか?』ってなってるうちに、トラック一台分の機材を買ってきた。失礼な話だよ。怒ったよ。今思えば、そんなトラブルがあったから絆が強くなったんだろうね」
言ってみれば「おまえの手料理は嫌だから、シェフを連れてきた」って感じだ。
ショーゴ氏が興したジャポニクスのHPには、ちょうどフジ頃の予定が載せられている。フジへの出演が発表されたヴェリー・ビー・ケアフル(Very Be Careful 以下、VBC)にベリ・チャラック(Berri Txarrak)のイベント出演情報だ。
「気になるのは、ベリ・チャラックのベースが辞めちゃったこと。ヨーロッパで凄い人気が出ちゃったから……8年間ずっとツアーばっかりで疲れちゃったんだよ。今は新しいベーシストを見つけてる。でも、あのバンドは全部が『謎』だね」
このバンドは、パンクをメタルで鳴らすことを得意としていて、馴染み深いところではニュー・オーダー(New Order)の”ブルー・マンデー”をカバーしている。ちなみに去年は、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)のビルバオ(バスク)公演の前座として湧かせたらしいので、是非とも聞いてみて欲しい。
「VBCは、去年の朝霧でなかなか終らなかったでしょ? 電源が落ちて、3回目のアンコールもやりだして、僕は『ヤバい、早く終らせなきゃいけない』って裏にいた。クンビア・キッド(Cumbia Kid。パレス・オブ・ワンダー出演決定。ちなみに兄貴はフジで一番の酔っぱらいである)も『もう俺は逃げるぞ!』って感じだった。とにかく、べろんべろんで大変だったのに、メンバーたちは今回の来日が決まって『次はもっと凄いぞ!』なんて言ってるから、すんごく怖い。一体どうなるか想像つかない(笑)」
なかなか終らなかったライヴのおかげで、最後の夜はかなりの千鳥足が生まれていた。そして、なにもステージだけで騒いでいたわけではなかった。まさにウチらのタープに入ってきて、隣近所にもお邪魔して……と、めちゃくちゃな行動をとっていたことを付け加えておく。もっとも、いろいろと世話をするショーゴ氏の悩みのタネを増やすわけではないけれど……。
話がラテンへと加速してきたので、最結成トドスの来日についても聞いてみた。
「本当に残念だった。マネージャーはアルゼンチンでは有名なヤツだけど、とんでもねぇバカ。今までのバンドはサッカーのスタジアムでライブをやるくらいに大成功していて、調子に乗ってるんだよ。メンバーは2年前から『行きたい、行きたい!』って力を入れてた。全部がOKになったんだけど、そいつが『俺たちがNOと言えば、次は3倍出すだろ』とか言いだして……単純なラテン人の考え方だね。金じゃない、僕とトドスの連中は親友だから、みんなで持ってた夢はみんなで努力して実現したかった」
ということで、すっぱ抜きやその他で触れられた「初めての苗場で衝撃を与えたバンド」はトドスで正解。キャンセルはスマッシュでもジャポニクスのせいでもない。「バカ」という単語は先にも出たが、重さも響きも全然違う。そして、トモダチを思えばこその言葉が続いていく。
「僕のなかでは、ご飯に招待しているようなもの。もてなしだよ。ヴォーカルとギターが中心となって『俺たちだけでも行こうよ!』ってなったんだけど『いいけど、行ったらクビだ!』って言われてね。それで、ぼくは日本に来ることで、せっかくのいい事務所に放りだされるのはどうなんだろう、って思ったの。スマッシュも犠牲者だよ。連中は昔っからマネージャーに恵まれてないね。今回の話はメンバー達が一番ショックを受けてる」
悪口はラテン世界のコミュニケーション・ツールのひとつではあるけれど、マネージャーに対するそれは、笑い合えるようなものではなかったようだ。
今回のフジは、ゴーゴル・ボーデロ(Gogol Bordello)が決まっている。知る人ぞ知る、マヌ・チャオ(Manu Chao)を筆頭としたレベルを発するサイトがレディオ・チャンゴ(RADIOCHANGO)で、その基礎となる繋がりを指してラディカル・ミュージック・ネットワーク(RADICAL MUSIC NETWORK)という。何を隠そう、その極東地域を仕切るのがショーゴ氏だ。移民の街で結成されたラディカルなバンドと繋がりが無いわけがない。
ゴーゴルが以前来日しかけた時は、主催イベントのスペシャル・ゲストDJとしてユージンが決定していたのだが、もちろん実現はしていない。今回も声をかけているのか聞いてみると……?
「今回はフジで来てるからね。日高さん、以前はOKって言ってくれたけど……一番忙しい時期に『こんなこと考えてるんですけど……』なんて申し訳なくて言えない。もちろん気持ちはあるけど。まぁ、ゴーゴルが見れるのは嬉しいね」
ゴーゴルは見ておいたほうがいい。見れば、もはや当たり前になっている「UK / US=洋楽」なんてくくりが、まるで小さく、そしてつまらなく思えてくるだろう。頭ん中の世界地図は塗り替えられて、国境という概念が薄れていくはずだ。最初はライヴを楽しむだけでいい。チェックしていなくても、通りすがりで耳に飛び込んでくれば、きっと大騒ぎに加わってしまうはず。散々楽しんだ後で、彼らがステージへ立つ意味を考えても遅くはない。
それを実際に引き起こしていたのが、去年のフェルミン・ムグルザ・アフロ・バスク・ファイア・ブリゲイドだ。最初は隙間だらけだったはずのグリーン前が、いつしか人で溢れ、揺れていた。
「正直、グリーンと聞いてびっくりしたよ!」
とは言うけれど……ちょっと大げさかも知れない、と思った。そして、嬉しそうに言葉を続ける。
「他からの話もあるけど、簡単に魂を売りたくない。スマッシュだけは……日高さんがいるから紹介するの」
日本ではほぼ無名に近いバンドに、メインであるグリーン・ステージを与えてくれた大将の英断に感謝である。規模はもちろんのこと、導線としても機能する場所に、フェルミンが登場することの重要さは計り知れない。まだまだ知られていない文化との出会いを、大将ならきっと用意してくれると信じている。これも人との繋がり、トモダチだからこそ、グリーンという夢物語も心のどこかにはあったはずだ。おそらく今年も、多くの人で賑わう場に、得体の知れない連中が出るんじゃないだろうか。
フェルミンといえば、急遽オレンジのトリを任された裏側なんかも気になるので、これも聞いてみた。
「フィッシュボーン(Fishbone)がキャンセルになって、僕のところに連絡が来たの。一応フェルミンにはメールしたんだけど、返事が来る前に大丈夫って言っちゃった(笑)。後で彼から電話をもらって『答えは解ってた。決めたぞ!』って言ったら『もちろん!』って。人が困ってる時には、絶対に助けるヤツなんだよ。サムライだね。今はパレスチナにこもってるよ」
突然飛び込んできた「パレスチナ」という言葉。即座に思い浮かんだのが、フェルミンの自宅に貼ってあった、スペインでも活躍しているヒップホップのグループ、ダム(dam)と組んだライヴのポスターだ。マヌと一緒に組んだ期間限定プロジェクト、ハイ・アライ・カトゥンビ・エクスプレス(Jai-Alai Katumbi Express)と同じくらい目立つところに貼ってあった。
「ダムだけじゃなくて、いろんな人とトモダチになってるんじゃないかな。フェルミンがパレスチナに行って交流しているのは凄いことだと思うね。誰も知らないんじゃない? 向こうに音楽があるってこと」
たしかにニュースだけを見ていると、焼け野原というイメージしか浮かんでこないかも。
「今度のアルバムにはパレスチナ絡みの曲が絶対入ってくると思うし、いろんなアーティストのアルバムにも参加しているみたいだから、絶対面白いものができ上がってくるよ」
そういえば、去年のフジついでに日本でレコーディングしたらしい、との話もこちらに伝わっていた。
「そう、日本で録音してるんだよ。でも、他はなんにも教えてくれない。『焦るな焦るな。お前、釣りが好きなんでしょ?』って言ってトボケてるんだよ(笑)。そんなこと言っても……早く声が聞きたいよね」
現在の日本で、同じように「声」をあげているのが、一番最初に名前の挙がったテックスにタートルだ。特に後者は、日本ならではの和太鼓や横笛といった祭り囃子に、パンクをミックスさせた唯一無二の音で空間をねじ曲げる。中川敬率いるソウル・フラワー・ユニオン(Soul Flower Union)や犬式(a.k.a ドギースタイル)のように、世界へとレベルを発信できる数少ないバンドだろう。
「世界を見ていれば、いろんな考えが混じるのは自然なこと。音にも表れる。ミクスチャーじゃないんだよ、アティトゥードがあるのはメスティソ(混血)。いつかはマヌ・チャオを呼びたいね」
☆JAPONICUS EVENT INFO☆
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【Total info】JAPONICUS
【Photos】
Shogo by Hiroki Nishimura
Very Be Careful by Naoaki Okamura(@Asagiri Jam ‘07)
Gogol Bordello by Miyuki Samata(@SXSW ‘06)
Fermin Muguruza by Toru Suguta and Koichi Hanafusa(@FRF ‘07)
Turtle Island by Ryota Mori(@Mount System ‘06)
Berri Txarrak and Gastetxea by Taiki Nishino(@Basque Country)
【Text】
Taiki Nishino
posted by taiki