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Jul . 5
1999
FUJI ROCK FESTIVAL 97

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How 2 survive & Have fun !
'97 連載
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HOW TO SURVIVE & HAVE FUN ! [1997.4.16]

実録:フジ・ロック・フェスティヴァル

「いやぁ、大将、止めてくれませんかねえ。あれやったら、絶対にスマッシュ倒産ですよ。もう、スタッフには次の職を探しとけって言ってるぐらいっすからね」
 冗談か本気か、裏方からそんな話が飛び込んできたのは大阪でパティ・スミスのライヴが終わったあとの、打ち上げ… ってより、めしの時だった。 「なんつうのか、ああゆうデッカイのってやっぱ1年ぐらい準備機関を置いて、スポンサー取って、段階踏んでやっていかないとダメじゃないすか。今からじゃ、遅すぎますよ」

 しかも、これには続きがある。
「それにさぁ、大将に頼まれたら断れないんだな、これが。このギャラがさぁ、安いんだよ。金がかかるから、『スタッフには悪いけど、いつもより安く押さえてくれ』だからな。仕事はいつも以上にハードで、ギャラはいつもより安いときた。でも、しゃぁないわ」
 と、まぁ、喜んでるのか、困っているのか、そんな顔で話している連中の言葉を耳にしてしばらく後、その大将に訊いてみた。 「どうすんの? 下手したら、本当に倒産だよ。ってぇのか、よほどしっかりしないと、絶対に倒産するよ」

 すると、大将、こう応えてきたもんだ。 「倒産すりゃぁいいじゃねぇか。潰れるときには潰れるんだよ」
 まぁ、ええけどね。スマッシュのスタッフは仕事ができるから、他の会社に行っても、十二分に仕事はできるし、彼らを欲しいってところも多いだろう。でも、スマッシュしかやらないようなインディなミュージシャンのライヴをやってくれるところってないよ。そのスマッシュが倒産したら、困るのは、ファンだよ。だって、レコードも売れていないアーティストのライヴなんて、どこがやってくれるの? セールスが悪かったって、素晴らしいアーティストはいっぱいいるんだから、こういうプロモーターがいなくなったら、やばいよ。
 ところが、そんな周囲の心配をよそに大将は勝手なことばかり言い始める始末。「いやぁ、やっぱりスポンサー取りましょうよ」と、言われると、「嫌だ。俺は、あんな冠り付きのコンサートなんて絶対に嫌だ。だって、そうだろ、連中にとっちゃ、音楽なんてどうでもいいんだよ。それなのに、ステージの真ん中にデ〜ンとデッカイ看板付けて、企業の連中が我が物顔で歩くわけだろ? 冗談じゃぁねぇや。はっきり言って、音楽をつぶしてきたのは、そんな連中だよ」

 なんでも、どっかの金融業者がスポンサーになりたいと話しかけてきたそうだが、「なんで、俺が金貸しの宣伝をしなきゃいけないんだよ」と、一蹴したとか。その時の金があれば、チケット代だって、安くできたし、スタッフももう少し稼ぎをあげられたのに…
 それだけじゃない。当初、経費を計算して出てきた入場料が15000円。 「どうしてもこれぐらいになりますね。これ以下だとやばいですよ」と、スタッフがはじきだしたのだが、これにも文句を言い初めて今の値段がでてきたという裏話もある。
 「やっぱり、日本のコンサート料金ってのは、高すぎるよ。どこの国でこれほどの料金設定していると思う? ぎりぎりまで下げろ。10000円は無理か?えっ? ダメ? 仕方ねぇな、じゃぁ、12000円だ。これ以上は絶対にあげるなよ」

 いわば、東京で海外からのバンドをひとつ見れば、5500円から6000円が相場。そんな意味で言えば、バンドをふたつ見る勘定だが、出演バンドは、ふたつのステージで1日に軽く10バンド以上はいるわけで、通常で言えば、安いはずだ。しかも、顔だけ並べて、演奏時間が極端に短い通常の野外コンサートとは違って、それぞれのバンドにかなりの時間を割いている。だからこそ、ステージもふたつ用意しているわけで・・だとすれば、絶対に安いと思うのが人情ってもんだ。
 でも、それに対して、値段が高すぎるというクレームのメールが入ってくると、「そうなんだよ、絶対に高いんだ。日本は高すぎるんだよ」と、大将はそれを認めてしまうから、困ったものだ。

 が、今回のチケット代は決して高くはない。ロンドンを例に取れば、通常のライヴのチケット代は10〜15ポンドで、約2000〜3000円。もちろん、ストーンズだとか、U2クラスのスタジアム・ライヴではその2〜3倍というのが相場だ。また、今回と同じようなフェスティヴァルになると、50ポンドをはるかに越える。例えば、手本にしようとしているグラストンバリーのチケット代が75ポンド。それが3日間だら、2日分で50ポンドと計算すると、約1万円。通常ロンドンで開かれているライヴの4〜5倍はするわけで、それを4倍程度に押さえたのだから、高いとはいえないはずなのだ。しかも、海外にはない約半額の一日用のチケットも用意されている。
 ところが、どっこい、さらに、大将は、こうも話しているのだ。「もし、万が一、チケットがすごく売れたら… その金を使って、もっとバンドを呼ぼうぜ」

 さて、これでもこのフェスティヴァルが高いと思うか思わないか… まぁ、ロック・ファンの判断に任せるとして、このフェスティヴァルに参加した人が、おそらく、今までで最高のイヴェントを体験できるってのは確信している。なにせ、これはただの野外コンサートじゃないんだから。今までの日本にはなかったタイプのフェスティヴァル。そのお手本となった英国のグラストンバリーを82年から毎回取材してきた人間として、プロデューサーの大将が形にしようとしているのがなにか、はっきりとわかるのだ。
 これから、フェスティヴァルが始まるまで、この特設ページにグラストンバリーを経験した人間として、フェスティヴァルをめいっぱい楽しむための情報を連載していこうと思う。おそらく、日本からグラストンバリーに行った人は知っていると思うけど、会場について初めて体験する世界にいろんな問題を感じるはずだ。それをいろんな角度からここに連載し、誰もが、おそらく、経験したことのない素晴らしい世界を満喫できるような情報を伝えていきたい。

 個人的な質問などにはなかなか答えられないけど、質問はどんどん特設情報交換用掲示板に書き込んでほしいな。全てに答えるのは無理かも知れないけど、スタッフが中心となって、できる限り答えていくつもりなので、決して無駄にはならないはず。それに、もし、海外でのいろんなフェスティヴァルを体験した人たちで、アドバイスをしたいという人たちがいたら、どんどん書き込みをしてくださいな。

 ということで、連載第1回は幕を閉じるのである。

written on the 16th April. '97

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