[苗場特集]金六イレブン-師田富士男さん
苗場観光協会の会長、師田富士男さんに話をきいた。苗場のフジロックへの関わり方、意識の変化や噂の熊骨スープやでかいなめこの話等、色々な話が聞けた。
--苗場でフジロックをやる時に一番最初に手を挙げたのは金六さんだって聞いたんですけど?
フジロックの話が出たときに、役員のほうに天神山のときの雑誌を見てた人が何人かいたんですよ。初めはとりあえず批判的な話が出てきて、私も一番最初は反対したんですよ。なぜかって言うとフジロックをやるのはいいんだけど、いい話がなかったから。スキー場をキャンプサイトにすると夜中に人が通るじゃないですか、だから「あそこでやるならおれは反対するよって」スキー場の副支配人に言ったんですよ。とりあえずはいい話がなかったからね。
でも人の話は分からんから、雑誌でいい悪いとか人から聞いた話なんかはね。だからとりあえず現地に行こうぜとなったんですよ。それで当時の組合長と、反対派の方を焚きつけて、3人で天神山へ行ったんですよ。
--あ、実際に天神山に行ったんですか。
そう。実際に自分達で聞いて。自分の中で「悪いことばかりということは絶対にないだろう」というのがあったから。で、聞いてみたら台風がたまたま来たとかさ。悪かったところは改善すればいいわけだし。で、次にお台場に行ったらそこではそんなに悪い話は無かったんですよ。ただ、終わった後に若い人が夜中にフラフラしてて治安上よくない、例えば若い女の人なんかに何かあったら困るんじゃないかっていう話だけだったから。
それで地元に帰ってきてそこでは賛否があったんだけど、その時日高さんいたかな?まぁとりあえずやってみろよと言う話をしたんですよ。それでやっぱりいい話がないってことで教育委員会、消防、警察、地元で会議をしたんですよ。そこでやっぱり反対派の方はハナっから反対で。そん時に私がね、「街でやんや言う話じゃなくて、地元に帰ってみんなで話せば済むだけのことだろ。」ってその親父さんに言ったんですよ。そしたら怒られちゃったんだけど、「金六さん。あんた地域の代表で来てるんだろ。」って。だから「代表は代表だけど、そんな話はここでする話じゃないだろ。戻ってすればいい話だ」と。まぁそんな風にもめたのは記憶にあるんだけど。
でもね、実際にやってみて……その時私は副町内会長だったのかな。それでバスが朝4時頃入ってきて、私は駐車場やってた関係で地域を回ってたんですよ。万が一何かあったときに、あれが悪いとか誰が悪いとか言ってるより、自分が先に止めちゃった方が無難じゃないですか。でやっぱりこの地域に人が来るってことが第1条件なんだからそんなことは頭の中に大前提であるわけですよ。おれの性格かもしれないけど。
それでやってみて結構楽しかったんですよ。フジロックの会場で氷売ってるじゃないですか。そこで氷が足らなくなったとかとかでウチに電話かかってきて、「金六さんなんとかしてくれ」って。「なんとかしてくれって言ったって氷なんかあるわけねえじゃん」って言ったら「品物は確保してあるから、若い衆がいるなら金六さん11トン車で取りに行ってくれる?」ってさ。それで若い衆2人に「氷は積んでくれるっていうから途中で寝てもいい。とりあえず朝の5時までに帰ってこいや」って言ったんですよ。そしたらとんでもない。行った先が日曜日で誰もいないの(笑)。で、朝6時になっても帰ってこないの。11トン車に手積みしてんだから(笑)。その時まだケータイ持ってなかったから連絡とれないし、周りからは色言われるし。出店に間に合わないんじゃないかと思ってハラハラしたようなこともあって(笑)。
だからそういう意味合いでもみんなが疑心暗鬼なとこもあったんですよ。今ではまるっきりだもんね(笑)ちょっとくらいは目ぇつぶってやれやれだもんね(笑)
--でも一番最初に反対派の人たちがかなりいる中で、その人たちは開催が決定したときゴネなかったんですか?
ん~……だけど、反対する理由っていうのは未経験からくる不安感だけなんですよ。だからとりあえず、問題を主催者にぶつけろって言ったんですよ。例えば駐車場の問題、保安整備の問題とかね。駐車場に関して俺は日高さんにかなり嫌なこと言いましたよ。それはやってみてそこで嫌なこと言うよりも、事前に言って対応したほうがいいに決まってるんだから。だからおかげで終わった後に、「あんなに警備いらなかったなぁ」ていう意見が地元からでましたよ。だけどそれは結果論であって、もし警備が足りなくて問題が起きたら大変なんだから。初めからナメてかかったらダメなんだよって。
だから今年主催者側に、「5年やって地元も主催者もタガが緩んできたから、再度お互いに締めよう」って言ったんですよ。それは規則で締めるんじゃなくて、緊急の場合があるわけじゃないですか。台風が来たりだとか、今年(FRF'03)みたいに雨だとかさ。そういう場合に公共の施設がどれだけ使えるとか、どこにどれだけの人数が収容可能だとかね。それとか警備、今回日高さんにも言われたんだけど山道から勝手に入ってきちゃう人たちの問題。そういうのは地域としてやらなくちゃいけないし、それで行政も動かさなきゃいけないし。そういう意味合いの中で締めようって。
初めは反対がいたけど、やってみて反対が出たわけじゃないから。人から聞いた話で反対してるわけだからね。日高さんを褒めるわけじゃないけど、そういう面に関してはあの人は素直に耳を貸したんですよ。もし「おたくら経験してないじゃないか」なんて言われてたら、俺もこういう性格だから必ず対立してたと思うんですよ。だけども地域に対して迷惑ばっかりじゃないし、学ぶとこから学ぶっていう考え方だから。だったら初めから悪いとこを改善しようって。警備なんか初め80人体制だったもんね。絶えず警備してましたからね。
--車の違法駐車とかは?
それがそんなに車がいなかったんですよ。天神山のあの大渋滞の話のおかげで。
だけど3万人来る中で単純計算して1万人が電車、1万人がバス、1万人が車で来た時に2人で乗ってきたと考えて5千台じゃないですか。5千台が来たとして、車1台プラス前後のスペースで約10メートルっていうと、単純計算ですけど……ね、答え出るじゃないですか。何十キロっていう渋滞がね。そういう発想がスタート当初はあったんですよ。それは経験したことがないから皆が頭でそういう計算をしちゃうんですよ。
--そんなのあり得ないんですけどね(笑)
あり得ないんだけど経験してないからわかんないんだよね(笑)。だけど天神山での大渋滞の話、救急車も上がれなかったなんて話があって実際に行ってみたら、確かに道幅は狭いじゃない。ここの国道なら脇に1台停めてあったて自由に通れるんだけど、あそこはそれができる道幅じゃないじゃないですか。だからどうなるのかわかんないんですよ。天神山とは環境が違うしね。それで3万人の割り算から始めたんですよ。
で、道路に一切駐車させないようにしてくれ、もしあった時は地元じゃなくて主催者の方から注意してくれって。だから駐車に関してはかなり厳しくなったんですよ。
--最初からしっかり継続してますよね。駐車券がなかったら車で来るなっていう。収拾つかなくなっちゃいますし。
ただ何回かやってきた中でね、今年あったんだけど、違法でもないんだけど駐車に関してね、地元が警察に電話するんですよ。そんなことがあって、いちいち警察に電話してたら主催者だって嫌になっちまうんだから地元で解決できることは地元でしようって言ったんですよ。で、電話かかってきたから行ってみたら、「ウチはいいんだけど、○○さんに迷惑がかかる。」なんて遠まわしな言い方するわけですよ。だから「あんたがいいならゴチャゴチャ言いなさんな。電話しなくても地元で解決できることなんだから。」って言ったんですよ。そしたら「いや、そうだけど……」なんて言ってましたけどね。
ただまぁ来年は1日4万人ていうじゃないですか。1万人が増えるってことはさっきの話じゃないですけど、また5千台でしょ?その半分としたって2千5百台。今はうまく納まってるとこに2千5百台っていうとまた問題が起きるじゃないですか。で、宿が「駐車場あります」って言っちゃうじゃないですか。それで停められた車に文句言うなんてのは駐車場をうたったほうの間違いなんだから。地元がもっとちゃんとしなくちゃなっていうのが次に向けての課題だよね。自分で駐車場うたいながら、いちいち警察に電話しちゃうんだから。
--でも難しいですよね。主催者はもちろん地元に迷惑かけちゃいけないんだけど、遠くの駐車場に停めてバスで来ると、「あれ、空いてるじゃん」なんてことになりますし。
だから今まで来てる人っていうのは苗場に行けば空いてるって思っちゃうでしょ。で、1万人が増える中でそういう人たちが次に来たら空いてなかったってなると、違法駐車が増えちゃうでしょ。苗場なん見ての通り山に囲まれてすり鉢の底なんだから、そんなことされちゃうと増えた1万人の中の数パーセントの車なんか入らないじゃない。だからこの間「いくら商売でも『駐車場あります』なんてうたっちゃダメだ。」って言ったんですけどね。
今年('03)のドリカムの時なんかも足りなくなっちゃって、「金六さん、あとはどこに駐車場隠してんの?」なんて電話かかってきたし(笑)。
--そのドリカムの時のお客さんとフジロックのお客さんて違いました?
ん~……こんなこと言っちゃまずいけど、ドリカムのお客さんはどっちかっていうと追っかけ風のミーハーっぽいよね。乳母車に赤ちゃん乗せた母ちゃんなんかも結構いましたね。「この炎天下の中で母ちゃん何かんがえてんだ?」なんて思いましたけどね。やっぱりちょっと違いましたよね。
--フジロックは2,3日ここで過ごすっていう感覚とコンサートっていう感覚の違いですかね?
そうですね。前日の泊まりはあったけど次の日の泊まりっていうのはほとんどなかったですしね。ま、でも苗場はフジロックのおかげで勉強させてもらいましたよ。通しの泊まりとかを含めてね。自分達が何をしたらいいかってのが分かりましたから。でっかいコンサートやらがあっても大丈夫ですね(笑)
--フジロックがきたことによって苗場の住民の意識は変わってきてますか?
かなり変わったんじゃないですか。ロックのお客さんていえばなんていうか……髪の毛はおったてて、大暴れするようなイメージだったと思うんですよ。でも実際旅館のおかみさんなんかと話すると、泊まったお客さんが帰った後に親切に手紙くれたなんて私に見せてくれるんですよ。
だからフジロックで来るお客さんの流れで宿の人が、お客さんと違ったところで親しくなれましたよね。来るまでのイメージとガラッと変わりましたよ。変な話、冬のお客さんなんかより品があるなんて言ってましたよ(笑)今年(FRF'03)みたいに雨で泥だらけになっても、きちんと洗い場でキレイにしてくるしなんてね(笑)。
--街全体の意識はどうですか?
やっぱり変わってきてますよね。それまでは夏には大学の合宿しかなかったから、それがない宿なんかは経済的にもガラっと変わりましたよね。ただ、フジロックのおかげでお客さんが来てくれることで、昔の冬の苗場みたいに雪が降れば黙ってればお客が来るみたいなね。自分が骨を折ってお客を呼んでない分、横着になっきてるのも事実なんですよ。部屋が汚れてたりだとか、布団を干してなかったりだとかね。最近は少しずつよくなってきてるけど。
そんな中でお客さんと親しくなった宿なんかは「どうすればお客さんが喜ぶか」っていうサービス業の原点に返ってきてますよね。それはまだほんの一部なんですけど。だからよくも悪くも変わってきてますよ。横着な部分はしっかり直さなくちゃいけないよね。それは悲しいことだから。
--フジロックきっかけに苗場をもっと知って欲しいですね。熊骨スープやら山ブドウワインとかあるじゃないですか。雪解けの苗場を。
でっかいなめこもあるしね。歯ごたえはあるし、味もちゃんとあるしね。売ってるやつなんか比較にならないよ(笑)。次のときは苗場のなめこ汁売ってみたいんだよね。苗場茶房ってとこで。もち豚もやってるし。他でも出てるらしいけど、ウチのは生肉だからうまいよ(笑)。他のは冷凍だから。夜中の2時に持ってきてくれなんて言われて(笑)
熊のスープもうまいよ。運がよければ食べれるかもね。めったに食えないよ。次の日ははだがツルツルになるしね(笑)
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フジロック未経験の僕だからか、苗場の人たちのフジロックへの関わりというのはどれくらい大変だったかは現実味をおびてイメージすることはできない。ただ、どれだけ真剣に取り組んできたかという主催者、苗場両方の熱意はには圧倒された。フジロックに対する期待はますますでかくなる一方だ。
そして、後日熊骨スープを頂いたがあれはかなり美味かった。食費を削って生活している僕にとっては衝撃の味だった。驚いたのは油が浮いているのに全然しつこくないということ。しつこくないからいくらでもおかわりできるのだ。ありゃあヤバイ。一生で食える人はどのくらいだろう。そして次の朝起きてびっくり。師田さんの話のと通りに顔がつるつるしている。これは話題のコスメなんか目じゃないな。今年のフジロックで幻の熊骨スープが食せるかどうかは微妙だが……。なんといっても幻ですから。食べたければこまめに金六イレブンに足を運んでもらうしかない。
(February 20, 2004)
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