Fuji Rockin' People Vol.6 --寺田さん(ティーム)--
---Fuji Rock Festivalにはいろんな分野から数多くの人たちが関わり合っています。というので、そんな人たちを紹介しようと思ってこのシリーズを始めました。今回は裏方さんで制作から報道や出店の窓口関係を担当している会社、ティームの寺田さんにご登場願った。---- by ORG-master
当然ながらフジロックのようなデカいイベントでは多くの人が関わっている。お客さんとして行くと目に付きにくいところで頑張っている人も大勢いる。今回、ティームという会社の寺田氏に登場してもらった。詳しくはインタビューの内容を見てもらうとして、裏方の仕事とそれに対する誇りや喜びがすごく伝わってくる。寺田氏によるとフジロックの構想は95年くらいからあったそうだ。
それと印象的なのはスタッフ一人一人が自分たちのイベントという意識で働いているという話である。フジロックというと、どうしても日高社長のイメージがあるけれども、多くの人が関わっていて、誇りを持って働いていることを皆さんにも知って欲しい。
【そこへ行くと違う国に来ている感覚があるというか、異文化を作っている。そういう環境だからやりがいがあるね】
――まず、どんなことをやっている会社か教えて下さい。
「分かりやすく言うとイベント制作会社。音楽関係で言うとフジロックなどの野外フェスが多い。夏のフェスはロック・イン・ジャパンもやっている。実際は関わってないけどサマソニは知り合いがやっているので必ず行っている。地方の野外フェスなどで、フジロックやったおかげで仕事が増えている。いいことづくめではないけど、悪くはない。音楽以外では、某外車メーカーの展示即売会とかを屋内・屋外でやっている。あとは各企業の展示会の制作とか。フジロックでは会場全体の構築、広報の窓口、出店者のケアや管理をしている。大きくはこの3つかな。
フジロックフェスのかかわりは、昔レコーディングエンジニアをやっていて、元々スマッシュの代表者との付き合いが古い。スマッシュが呼んだ外タレのライヴレコーディングをやったりしていた。転業してイベント制作会社に入って約7年間学んで、その時にフジロックやるんだけど、備品関係よこせという話があって天神山から現場を見に行って付き合っている。その時は設営隊は基礎ステージや会場のテント作りで10日ほど前から現地にいて、ずっと天気良かったのだけど、当日から雨降って、朝の5時までミーティングしてこのまま行ったら被害者出るということでやむなく中止になって一夜にして伝説のロックフェスになった。
次の年も場所を変えて会場全体の制作窓口、報道の窓口、98年から出店の管理も始めた。オフィシャルや協賛各社以外に任意に出店したいという店の管理とか、会場には3万人ほどの人がいるので飲食のケアをしなくてはいけないので、出店したいという人を選別したり、食べるものの種類を選ばないといけないし、食中毒出ると次から出来ないので現場の管理をしている。
保健所は面倒くさい。地域によって考え方が若干違うし、費用も違う。向こうが要求するのは食中毒がないようにということで、何かコトが起きたときにきちんとしていないといけないので、検便の検査結果とか書類取りまとめてハンコもらってお金も払って管理をしている。
会場作りの領域で言うと設営中に途中で雨が降るとつらい。苗場で3回やっているけど、必ず雨が降って作業ストップになる。苗場の初めの年なんかビー玉クラスの雹(ひょう)が降った。生まれて初めて見たよ。地元の人に言わせると苗場というのは群馬の悪い天気と新潟の山沿いの悪い天気を凝縮した感じのところで3日以上晴れることが少ない。フジロック中は奇跡的に晴れていることが多いね。
全体に言えるんだけど、運営サイドの人間たち、ホットスタッフや警備、設営など、不思議なことに全スタッフに気合いが入っている。知らないうちに波長が伝わっているというか。フジロックでとにかく事故があってはいけないという意識は、ステージ進行とか音響とかのスタッフも含めて持っている。そういうフジロックイズムのようなものが浸透している日本で唯一のイベントだと思う。
日本人が作った外タレも呼んだ野外のコンサートでなく、そこへ行くと違う国に来ている感覚があるというか、異文化を作っている。そういう環境だからやりがいがあるね。フジロックは僕たちが作っている意識が強い」
【演奏の出来不出来やアーティストの良し悪しを越えた部分ですごく楽しいお祭りに
なっているんだよということを伝えたいね】
――開催中はどんな動きをするのですか?
「開催中は、やることが一杯ある。作ったからOKというわけでなくて、トイレではバキュームや清掃の問題が常に起きているのでそれに対するメンテナンスの指示を出したり、あそこは水の管が一本しかないのでアヴァロンやホワイトで水が出ないことが毎回ある。みんな一気に使うので水がへるというのもあるし、(水が出るグリーンやオアシスエリアから)距離が長いということで水圧の問題もある。水が止まったときポリタンクや10リットルのミネラル水のタンクに水をガンガン詰めて軽トラックで運んだ。そのときはニール・ヤングが始まるときで、くそーとか思いながらやっていた(笑)
ただ、スタッフみんなが全体を理解しているのでどこか問題起きたときに立場関係なく対応できる。みんながそれに対して気にしているし、役割分担踏まえたうえで行動できる。みんなが全体を把握して、かつ役割分担を知っているから対応できる。だけどお互いの領域には口出しはしない。
お客さんから見えないところでサポートしている価値観というかな、それが喜びだよね。そういう価値観をみんなが理解してきたと」
――ライヴを観る機会はありますか?
「ライヴを観る機会は少しは作れる。自分がチェックしておきたいのは観れる。昼間にアクシデントが起きて、夜は比較的おさまっていることが多いので。
良かったステージは、ケミカルブラザース。元々エンジニアやっていたんで分かるけど、フジロックは音がいい。特にグリーンステージ。ケミカルはCD聴いてもつまらないんだけど、ライヴは良かった。あとはZZ TOP、それとPHISH。結構歩きながら観ているんですよ。今年ならニール・ヤングやパティ・スミス。パティ・スミスは水を配っていたんで、ステージは観れずに音だけ聞いていた。あとはマーキーのアニ・デフランコは良かった。納得した。上手いと思った。たまたま行ったらショーが繰り広げられている。一生懸命仕事をやったんで、そういうタイミングに恵まれているんじゃないかな。
フジロックで観たいのはオールディーズもそうだけど、U2を観たいね。グリーンでやったら格好良いと思う。あと、昔のバンドでも最近出ている新譜に良いものが多い。観たいといえばディランとかも良いよね。ただ今年気になったのはニール・ヤングが演奏しているのに、寒いせいか、お客さんがタラタラ帰っていったのが気になった。体が持たないというのもあるだろうけど、大御所に対する敬意があっても良いんじゃないかな。
フジロック自体が、苗場の2年目で分かったんだけど、超ビッグネームでなくてもコアなファンが来るということで、コアなファン+αをどう増やして行くかということになる。フジロックという存在感が出来てきたので、あそこで行なわれるお祭りが、どれも素晴らしいし、格好良いということを知らせたいね。演奏の出来不出来やアーティストの良し悪しを越えた部分ですごく楽しいお祭りになっているんだよということを伝えたいね」
【一人の思考で動いているのではなく、全体がひとつの生き物になっている感じです
ね】
――初めに思い描いていたフジロックの青写真と現在は違ってきていますか?
「場所と環境が変わっただけで基本的なスピリッツは変わってないね。ただ、マンネリ感が出るとマズいんで違った表現法をたえず考えている。それは主催者が考えることだろうけど、主催者だけでなく、みんなが考えているね。
例えば、サーカスをやるという気持ちは分かるけど、大きな出費だよね、ということが分かるわけで。サーカスをやるのはステージを作って場所もいるし、でもそれをやってしまうというのはフジの全体構想を一個一個実現してるということが分かる。映画もやりたいし、ポエトリーリーディングやソーラーステージもやりたい。
だからスピリッツは変わってないと思う。一人の思考で動いているのではなく、全
体がひとつの生き物になっている感じですね」
――フジロック期間中は寝れますか?
「スタッフサイドはどこかで仮眠する。旅館に戻るのは車で10分だけど、それなら車の中で仮眠するって感じかな。5時にすべて終わって8時までにクリーンアップが必要。キレイなフェスティバルといってもゴミはあるわけだし。あと、照明のチェックは夜だけだし、音響の調整も夜にやる。みんながみんなローテーションを組みながらやっているけど、人数に限りがある。けど、寝ないと体が持たないんでそれは無理が客にうつってしまう。だから無理はしないようにしている。お客さんが元気なら僕らも元気だし、お客さんの元気をもらっているって感じかな。
フジロックを一週間やりたいね。前の週の土曜から日曜まで7泊8日で木曜はオフ。ぐっすり眠りたい。今のように三日半だと72時間起きるのは無理なんだよやっぱり。最終日に無理がくるし、目一杯楽しんで月曜仕事という人も多いんで余裕あるスケジュール取れるともっといいかなと思っている」
――今年は砂埃がすごかったですね。
「会場での砂埃はオアシスエリアで水を撒いたけど、焼け石に水というかすぐ乾いてしまう。オアシスエリアはもっとゆったりした方がいいので改善したい。今だと『苗場センター街』みたいであまりオアシスじゃない。トイレの会期中の日常のメンテナンスはやらないとああはならないので、評価されていいんじゃないかという気がする。何とか品位を保っている。ただあまりに出来すぎるのもというのはある。不便なんだけど、不便さが楽しいが基本で、自分のことは自分でやろうという生活能力が低い人は来たらつらいんじゃないの。暴力行為や怪しいものを売っている人は注意するし規制するよね。僕らのことを理解してくれない人も来て欲しいけど、最低限のマナーは分かって欲しい、それはみんなの共通した思いだから」
【10万人が当たり前でそこから先どう広がるのか】
――今後フジロックをどうしたいと考えていますか?
「お客さんを増やしたいですね。チケット代下がるし。ただそれぞれのステージのキャパシティに限界あるので、その中でふくらませたい。
いろんな新聞も取り上げているけど、今ひとつ足が向かない理由というのは、もっと日本人もゆったり楽しめばということだと思う。みんな日々の生活に汲々になっているからね。
フジロックで出会って付き合って結婚している、会場でHして子供出来たとかいるだろうね。そういうフジロックベイビーとかフジロックで出会って結婚、を特集してもいいよね。結婚式をフジロックでとか。いいと思わない?結構メディアが取り上げるんじゃないかな。
それと、お客さんに子供が増えているのはいいことだと思う。感受性が豊かになるよね。僕も22の子供がいるけど、最初からそうだから違和感ないの。レコーディングエンジニアやっていたんで毎回新譜聴いているし、オールドも知っている。ビートルズは僕らが聴いているから知る、それがフェイバリットソングだったりするわけじゃん。マージービートやニューロックにしろ凄いのが昔あったことも分かっているし、流行ものを平行して聴いている。思考や感受性の限界が取り払われるからいいんじゃないの?僕らのときは、学生のころは音楽に熱中するけど、社会人になるとパタッとCD買わなくなるんだよね。不思議な現象だけど企業文化がどっかゆがんでいる。レコード会社や招聘会社とかアパレル系とかはロック聴く文化がそのままだけど、現実の社会はそれだけではないからね。50代の連中ってロック文化で始まったのだけど、それがそうならないのは何でなんだろう。変だよね。
フジロック一回目で想定できる問題点は出た。エマージェンシー対応の難しさと実際を経験したので、次の年はまたやるのかという勢いで始まったけど、問題点が出尽くしたのでそれをどうクリアしていくかということだね。苗場で3回やってある種至れり尽せりになったんで、もうちょっとワイルドにしてもいいと思うね。10月の朝霧JAMで有志のスタッフは自炊をしたけど、フジロックでもそういうのがあってもいいんじゃないかと思う。反対はあるだろうけど、ひとつの風物詩になっていいのかなと思う。
それから、さっきも言ったように期間を長くしたい。費用対効果は別として、取っ掛かりは1週間、中日は休み。それともうちょっと広いフィールドがあるといい。やっぱ10万人という数字は出したい。10万人入れば善循環が回るし。10万人が当たり前でそこから先どう広がるのか。あと世界のロックフェスのひとつになりつつあるので、それをさらに広めていきたい。グラストンベリーも良いけど、フジもすごいぞと。
お客さんに対しては驚きが欲しいよね。マナーを知りすぎていい子ちゃんになってもつまらないし。『本当かよ!』というのがあると良いね。いつの時代でもパワーを持っているのは若い人だから。ここに来ると世俗のことは忘れるみたいな。よく高い山に登って下を見たときに、どうしてあの世界でチマチマ考えているんだろう、この晴れ晴れした気持ちはなんなんだというような感じ。絶対数も増やしたいし、そういうマインドも増やしたい。空間を創造するというか僕たちはこう考えるよ!というのがあるといい」
――来年のフジロックはいつ頃から動き始めますか?
「来年のフジロックについてはまだ考えてない。スマッシュの方では考えているだろうけど。日々の作業が多いんで、そこまで回らない。実際3月か4月にミーティングをやって、例えばサーカスをやるならこういうテントがどこの国にあるとかビデオ観ながら検討する。
今年のレッド・マーキーのテントはそのために設営する会社がドイツから買ったんだよ。すごいと思わない?あの色は一般的には使えないし。キャンバス以外は他のイベントでも使えるけど。フィールド・オブ・ヘヴンのテントやオアシスエリアにあったネットカフェも、今年新たに購入している。気合入っているでしょ?」
――では、締めの言葉をお願いします。
「目標10万人(笑)。みんなで楽しくやれればというのが原点だよね。野外のフェスでやる楽しみをどう見出して行くか。面白いと思ってくれるお客さんは増えているので、だいぶ浸透しているけど、コツコツ広めて行くしかない」
Reported by ORG-nob (Dec 2, 2001)
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