フェスティヴァルのスタッフを中心として始めたインタヴュー・シリーズがFuji Rockin' People。もちろん、そちらもどんどん続けていくんですが、同時に、出演してくれたミュージシャンや彼らのマネージャー、メディア関係の人たち等々、フジ・ロック周辺にはいろんな人たちが顔を覗かせています。というので、始めたのがAround The Fest.というシリーズ。ここにもいろんな人たちに登場してもらってフジ・ロックをいろんな角度から見てみようと思っています。というので、1回目はOrg-nobによる小野島大氏インタヴューです。
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このAround the Fest.にはなるべくいろんな人に登場してもらいたいと思っている。「身内」とか「外部」とか関係なく、フジロックについて語ってもらう場でありたい。
今回登場して頂くのは音楽評論家の小野島大氏である。小野島さんは2001年のフジロックについて前後のレポートを「Swich」誌に、パティ・スミスについて「ミュージックマガジン」誌に執筆していた。フジの雰囲気を楽しみながらも、冷静な視点を欠かさないところを読んで頂きたい。
【苗場では飲んだくれ!?】
――01年の印象をお願いします。
「今年良かったのは、パティ・スミスとトリッキー。スクエアプッシャーも面白かった。全部観るのは無理だし、観たいと思っても、現実は予備知識のあるものを観てしまう。でも、フジロックは場の雰囲気が良い。向こうで出会った友達とガーッと盛りあがるというのも楽しいしね。だからぼくの場合、アーティストのパフォーマンスだけを観に来ているわけではない。
もちろん宿泊費は払っているけど、インビテーションもらってるから入場料とかタダだし、全額自己負担で来ている若い子と比べて切実度は全然違うから、そういうことが言えるのかもしれない。でも、音楽は大事だけど、それ以上にその場の雰囲気に浸るのがいいんじゃないかな。
何事に対しても出たとこ勝負なんで、計画を立てて観てまわるということはない。仕事として来ても、漠然とフェス全体をレポートして欲しいという依頼が多いから、そこからは適当だよね。全然期待してなかったライヴが意外に良かったり、意気込んで観たライヴがダメで途中でフケちゃったり、酒飲んで面倒くさくなってひっくり返ったり。計画を立てて回るのもいいけど、適当にその場の勢いで観るのがいいんじゃないかな。酔っ払って楽しんだだけで仕事にしていいのかというのはあるけど(笑)。
今までは現場でのインタビューとかアーティスト取材はない。結構やっている人いるけど、あそこにテレコ持っていって質問考えるのはカッタルいよね。今年はちゃんと真面目に観ようと思ったからあんまり酒飲まなかったけど、去年までは飲んでばっかりだったな」
――フジロックを始めると聞いてどう思いましたか?
「スマッシュの会社の規模で、あれだけデカいイベントをやって大丈夫かな、とは思った。もちろん楽しいイベントにはなるだろうけど、大丈夫なの? っていうのは、音楽業界の人間はみんな思ってたんじゃないかな」
――1年目が終わったときにはどう思いましたか?
「これでスマッシュは潰れるんじゃないかと思ったよね、正直な話。実際は保険に入っていたらしいんで金銭的な被害はそんなになかったようだけど。一番仲良くさせてもらっているプロモーターだし、スマッシュの行く末の方が気になった。
あのとき、スマッシュの掲示板でのスマッシュ批判が凄かったけど、台風の中の惨状で主催者も客も運が悪かったということはある。ただ事実として主催者側の不手際はいっぱいあったようだし、もちろん客の側の未熟さというのもあって、その辺を踏まえた記事を『ミュージックマガジン』に書いたけど、他の雑誌はみんな何の問題もなかったような記事構成をしていて、それは頭に来たよね。もちろん我々マスコミの側も無実ではないし、反省すべきところは反省しないと、この種のイベントが根付くことは不可能だから、なるべく客観的に、評価すべきところは評価して、批判すべきとこは批判して、客観的な記事を書くように心がけたつもり。
でも、日高さんとも話したけど、一年目はあれでかえって良かったんじゃないかな。無事に終わっていたら問題点が表面化しにくかった。一番最悪な形で問題が出てきて、それを克服する形で2年目以降があったわけだし」
――これからのフジは不便さを楽しむとか、きちんと整備したイベントにするのかっ ていう2つの方向がありますが。
「今年は人が多かったですよね。WIREでも思ったけど、人が多いと客の質が落ちてしまう。もちろんそういう言い方は傲慢だし、あんまり良い言い方ではないけれども。それまではフジロックにしてもWIREにしてもロックやテクノが好きで、自分たちのイベントを頑張って守って育てていこう意識がみんなにあった。とくにフジでは1年目の失敗があったから、みんなに危機感があったけど、何年かしてイベントが定着してしまうと、場の空気を読めない、マナーの悪い人もたくさん来ちゃう。もちろん、そういう人に来るなとは言えないから、ある程度インフラをちゃんと整備するしかない。日高さんが最初に意図したものとは多少違ってくるのかもしれないけど、それは仕方ないよね。だから日高さんは、朝霧JAMのような、不自由さを楽しむものを作ったんだろうね。
フジロックが大きくなって定着すると、フェスの基本的なルールやマナーがわから ない客が来るのは防ぎようがないし、そう考えると、快適に過ごすには自ずと方向性 が見えてくると思う」
【フジロックが変えたもの】
――音楽業界の中では「フジロックなんて面倒くせえなあ」と思って、いやいや付き合っているいる人はいるのでしょうか?
「俺の周りにはフジロックが好きな人ばっかりだからそういう人はいないなぁ。遠くまで行くのは面倒くさいと言う年寄りもいるけど、ほとんどの人はフジロック好きだし続けてほしいと思っていると思いますよ」
――どんなアーティストに出て欲しいですか?
「ロックとかテクノに片寄りがちなんで、もうちょっと幅広く、ワールドミュージックとかを含めて、フェミ・クティみたいなアーティストはどんどんきてもいいと思う。あれだけステージがたくさんあるから世界のいろんな音楽を聴きたいというのはあるよね。でも、アーティストに関してはどうでもいい……と言うと極端だけど、ぼくは雰囲気を楽しみに行きたいから。今年は一般的には豪華なラインナップだったけど、地味な顔ぶれでも行っただろうし。
苗場だから観たいというのは特にない。前にThe Whoが来るという噂があって来たら楽しいだろうなというのは思ったけど、苗場だから観たいというのはない。この間の来日公演を見て、ビョークをもう一度観たいと思ったけど、実現する可能性がありそうなアーティストだからね」
――フジロックで今まで良かったライヴは?
「良かったのは豊洲のビョーク、今年のパティ・スミス、昨年のROVO、モグワイ。その都度いっぱいある。アンダーワールドとか」
――フジロックが変えたものは何でしょうか?
「いろいろあると思うけど、ああいうイベントの楽しみ方みたいなものを客に教えたというのはあるでしょう。今までの野外コンサートは規制が多くて、野外なのにロープ張ってブロック分けしていたし、押し着せな感じで制約が多かったけど、そうでない楽しみ方を分からせたというのはある。
あと大きかったのは、洋楽ファンと、邦楽ファンの垣根を壊したことかな。今までは洋楽ファンと邦楽ファンは相容れないという先入観があって、洋楽のライヴに邦楽のバンドが前座に出ても両者が混ざり合う感じはなかったけど、フジロックでは普通に同じように楽しんでいるよね。それはもともとそういうお客さんが来てるのか、フジロックが育てたのか微妙だけど、お客さんがリベラルになってるのは痛感する。そうした状況を一番分かってないのが音楽業界じゃないかな。
そうは言ってもイエローモンキーなんかを見るとまだ壁があるような気がするけど、ミッシェル・ガン・エレファントやブランキー・ジェット・シティなんかは壁はないよね。ミッシェルはフジに出たのがデカかったと思う。極端に言えば豊洲に出るまではミッシェルはいかにも邦楽のバンドで、ああいうモッシュやダイブが頻発するスタンディングのフェスティヴァルに慣れてないファンが多くて、豊洲では客席が混乱して中断したよね。だけど、去年のフジでは何事もなかった。お客さんが成長したってことじゃないかな。
でも、しょせん小さい世界の話だけどね。GLAYが30万だか集めてやっているときに、あれだけバンドが集まって客の数は10分の1かぐらいでしかない。おれたちは少数派かというのはある(笑)」
――フジロックの教育効果というか、海外とビジネスしている人なら分かると思いますが、アーティストが、レコーディングとか奥さんの出産とか病気とか飛行機に乗り遅れとか単なるワガママとか、いろんな理由で来れなくなる可能性があって、それにいちいち目くじら立ててもしょうがないということを教えたような気がしますが。
「でも、それは怒ってもいいんじゃないかな。そのアーティストを楽しみにしてチケット買った人は、そりゃがっかりすると思う。責任を取れとは言わないけど、主催者は『申し訳ない』ぐらいの気持ちはあっていいと思う。開き直るのは傲慢だと思うけどね」
――でも、例えば、株を買って値下がりしたことについて怒っているような気がしますけど。
「株は下がるリスクを承知の上で買うけど、コンサートはそのアーティストを出るのを前提にチケット買っているのだから、極端に言えば契約不履行じゃないのかな? それを『そんなことは日常茶飯事だから、いちいち目くじら立てるな』とは俺は言えない」
――ただ、そういうアーティストと契約する方が悪いと言えば、そういう批判もあるかも知れないし、出演をギリギリになるまで発表しなきゃいいということかもしれませんが、いろいろ話を聞くとキャンセルはアーティスト側の原因によることもあるわけで。
「だから、日高さんが言うには、究極の理想は、当日までアーティスト名を発表しないでチケットを売りたい、『何月何日から何日までフジロックをやります』それでチケットを買って欲しい、というように、フジロックという場そのものが愛されればいいということなんだよね。実際はなかなか実現はむずかしいだろうけど。
でもアーティストが出る出ないで一喜一憂する現状は分かるし、それは避けられないでしょうね。それは入場料の高さにも関係しているし。大学生の小遣いで行けるくらいになれば理想だけど。
ただ、日本人はもっと楽しむということに関して貪欲になってもいいというか。サラリーマンが「金曜日にやるのは困る」というのは分かるけど、たまには一日くらい休んでもいいし、苗場まで行くのを面倒くさがる人もいるけど。レコード聴いたりビデオ観たりという色々な楽しみ方があって、その中のひとつにフジロックがあってもいい。そういうライフスタイルになっていくといいんじゃないかな。
俺なんかも出不精な方だし、今の仕事をやっていなければ、もちろん音楽は聴いていただろうけど、フジみたいな野外フェスティヴァルで楽しむことはなかったかもしれない。最初は仕事だったけど、今は心底楽しみに行っている。もちろん面倒くさいことはあるし、金銭的にも時間的にも肉体的な疲労とかいろいろと、それなりの代償はあるけどね。ラクして楽しもうというのはちょっと考え方が甘いかもしれない」
――フジロックへの希望はありますか?
「特にないです。ずっと続けて下さい、というくらい。もちろんサーカスとか、音楽と関係ないアトラクションがあったっていいと思う。それが入場料にハネかえるのはマズいかなとは思うけど。あと、出来るなら場所は苗場から変えて欲しくないですね。地元と上手くいっているようだし」
【インターネットと音楽の関係】
――インターネットによって音楽の聴き方が変わったことはありますか?
「インターネットで音楽の聴き方が変わったとは思わない。これは、音楽に限ったことではなくて、同時テロ事件のときに強く思ったことなんだけど、今までは世界中にいろんな意見があったけど、それが表面にはなかなか出てこなかった。新聞やテレビは権力側に都合のいい情報しか流さないし。でも、今なネットがあるおかげで、いろいろな情報を共有できるし、多様な意見がみんなの目に触れるようになっている。画一的な情報操作ができなくなってる。アメリカは正義ということになっているけれども、必ずしもそうではないし、そう考えていない人が多いというのが分かる。
そういう意味でネットは価値がある。もちろん悪いところもあるけど。ロッキンオンやクロスビートが必ずしも全面的に信用できるとは限らない、いわば大本営発表みたいなもんだということに気づいたんじゃない? 『ロッキンオンで誉めているけど、全然つまんねえよ』という意見はあって当然だし、それが堂々と表に出てきた。既成のメディアは結局レコード会社の金でがんじがらめになっているんじゃないかということに、みんなが薄々気づき始めた。じゃあ、音楽雑誌いらねえや、情報を拾うならネットで十分だという話になる」
――その中でご自身の役割は?
「ネットに出来ることと出来ないことがあって、普通に考えれば、速報性や情報の多様性やインタラクティヴ性はネットが有利だけど、長文テクストを読ませるとかキレイな写真とかは雑誌の方が上ですね。俺も自分でサイトやってるけど、やはり紙の雑誌できちっと読ませるような記事を書いていくのが俺らの仕事かなと思う。そうすると必ず『評論家なんて要らねえよ』という奴が出てくるけど、要らないなら要らないで結構。でも、そういうのを読みたがる人もいるし、俺自身もそういう優れた評論文に触発されたし、音楽の聴き方が変わるということもあったから。
フジロックの1年目、ものすごい批判がスマッシュの掲示板に殺到したとき、書かせるままにしたスマッシュは大したもんだと思う。日高さんもネット上であれこれ釈明したりしなかったけど、ちゃんと2年目以降に経験を生かしたわけだし。スマッシュのいいところは自由にさせてくれるところだから、それをわれわれがどう活かすか。
掲示板とかは、批判のための批判やデマカセや面白がって悪口を言うのもいるから全部が全部容認するわけにいかないけど、いろんな人の意見が、誰の目にも触れるように明かされるようになったから、批判的な意見を黙殺出来なくなった。ただの言いがかりか正当な批判かどうか個々で判断するしかないけど、不誠実な対応をしたら、たちまち叩かれることは確か。それだけ、それぞれの仕事に求められる基準は厳しくなってる」
Reported by ORG-nob (Feb 09, 2002)